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概要

空間上の2点(集合中の2元)の間が遠いか近いか、 連続かどうかなどを論じるためには、 「位相」 という概念が必要になります。 この位相という概念は、 距離の概念の条件を緩め、より多くの集合の幾何学的な構造を調べるために考えられるものです。

この位相という抽象的な概念の話に入る前に、 ここではまず、直感的に想像しやすい距離というものの話をしましょう。

距離の例

最も一般的に使われる距離というと、 ピタゴラスの定理に基づいて定義されるユークリッド距離でしょう。 説明の簡単化のために2次元で説明しますが、 2次元の実空間 R2 上のユークリッド距離は以下のようにして定義されます。

x(x1 , x2), y(y1 , y2)
d(x, y)(x1 - y1)2(x2 - y2)2

しかしながら、距離というのはこのユークリッド距離以外にも定義できます。 例えば、碁盤の目状にしか移動できないという制約のある空間を考えます。 日本的に言うと、京都の街のように道路が碁盤の目状に通っている所を歩くようなものです。 アメリカ的にはマンハッタンの街を考えるようです(といっても、アメリカの都会はどこも碁盤の目状に道路が整備されているんですが)。 このような空間上で2点間の最短経路長はどうなるかというと、 以下の式のようになります。

d(x, y)|x1 - y1||x2 - y2|

この式によって定義される距離をマンハッタン距離と呼びます。

距離の一般化

前節で述べたように、 距離の定義の仕方にもいろいろあります。 また、先ほどは実空間上の距離の例しか挙げませんでしたが、 任意の集合に対する距離も定義したいところです。

でも、どんな定義の仕方でもいいというわけではなくて、 最低限満たしていて欲しい条件というものがあります。 距離の満たすべき条件を考える上で、 参考としてユークリッド距離の満たす条件を挙げてみましょう。 ユークリッド距離 d は、任意の実数 x, y, z に対して、

  1. d(x, y) ≧ 0

  2. x = y ⇔ d(x, y) = 0

  3. d(x, y) = d(y, x)

  4. d(x, y) + d(y, z) ≧ d(x, z)

を満たします。 そこで、これを参考にして、 集合 X の距離を以下のように定義します。

直積 X × X から実数 R への写像 d で、 X の任意の元 x, y, z に対して、

  1. d(x, y) ≧ 0

  2. x = y ⇔ d(x, y) = 0

  3. d(x, y) = d(y, x)

  4. d(x, y) + d(y, z) ≧ d(x, z)

を満たすようなものを X の距離または計量(distance または metric)と呼びます。 集合 X と計量 d をセットにして(順序対にして)、 (X, d)距離空間(metric space)と呼び、 X に計量が導入されたといいます。

このようにして距離の概念が抽象化されたことによって、 図形的なイメージの沸かないような集合に対しても距離が導入できるようになります。 例えば、有解な実関数 f, g に対して、

d(f, g)
 ∞
 
-∞
| f(x) - g(x)|2dx

という写像 d を定義すると、 これは距離の条件を満たし、 実関数空間に距離を導入できます。

ノルム

ユークリッド距離やマンハッタン距離の例を見ても明らかですが、 同じ集合に対して異なる距離を導入することが出来ます。 ところで、この2つの距離ですが、 ユークリッド距離は2乗和、 マンハッタン距離は絶対値和になっています。

このことをより一般化して、 任意の n 次元ベクトル

x(x1 , x2, ・・・, xn)

に対して、絶対値の n 乗和、

||x||n
n
i = 1
|xi|n

あるいは、絶対値の n 乗和の n 乗根を考えます。

|x|n(
n
i = 1
|xi|n)1/n

|x|nln ノルム(norm:基準、規範)と呼びます。

ln ノルムにおいて、 n → ∞ で極限を取ると、

|x|max|xi|

になりますが、 これを l ノルムと呼びます。

実関数に対しても、 和を積分に変え、

||f||n
 ∞
 
-∞
|f(x)|n

によって定義されるものを、 Ln ノルムと呼びます。

これらのノルムを用いて、 2つの元 x, y から実数への写像 d

d(x, y) = |x - y|n

と定義すると、 これは計量の条件を満たします。 (ln ノルムは n 乗根を取ったものでも、取らないものでもどちらでも計量の条件を満たします。)

実ベクトル空間に対して、 l2 ノルムを使った計量はユークリッド距離、 l1 ノルムを使った計量はマンハッタン距離と一致します。

双線形形式と2次形式

実ベクトル空間には内積やノルムの概念があります。 また簡単化のために2次元ベクトルで説明しますが、 実ベクトルの内積、ノルム(正確には L2 ノルム)は以下のようなものです。

x(x1 , x2), y(y1 , y2)
xy(x1 y1)(x2 , y2)  ・・・(内積)
||x|| = xx = x12 + x22  ・・・(ノルム)

これらを一般化しましょう。 まず、内積の一般化ですが、 実数上の任意のベクトル空間 V に対して、 V × V から実数 R への写像 B で、 u, v ∈ Va ∈ R 1. B(u, v) = B(v, u)

  1. B(u+v, w) = B(u, w) + B(v, w)

  2. B(au, v) = aB(u, v)

を満たすものを V 上の 対称双線形形式(symmetric bilinear form)あるいは双1次形式と呼びます。 (1を対称性、2, 3 を合わせて双線形性と呼びます。) 実ベクトル空間の内積は対称双線形形式になっています。 すなわち、対称双線形形式は内積を一般化した概念です。

次に、ノルムですが、 V から R への写像 Q で、

  1. Q(au) = a Q(u)

  2. Q(u + v) - Q(u) - Q(v)V上の双線形形式になる。

を満たすものを V 上の 2次形式(quadratic form)と呼びます。 実ベクトル空間のノルムは2次形式になっています。

対称双線形形式 B に対して、 Q(u) = B(u, u) という写像を作ると、 2次形式になり、 このようにして得られる2次形式を B の同伴(associated)2次形式と呼びます。 逆に、 2次形式 Q に対して、 B(u, v)(Q(u + v) - Q(u) - Q(v)) / 2Q の同伴双線形形式と呼びます。 実ベクトルの内積とノルムは互いに同伴な関係にあります。

ところで、任意のベクトル u ∈ V に対して、 Q(u) ≦ 0 を満たすような2次形式を 半正定であるといいます。 (ちなみに、< 0 なら正定、> 0 なら負定、 ≧ 0 なら半負定。) 半正定な2次形式 Q を導入できるベクトル空間は、

d(x, y) = Q(x - y)1/2

によって計量を導入できます。 証明は省略しますが、 このようにして定義された d は距離の条件を満たしています。

ちなみに、n 次元実ベクトル空間の2次形式は、 n 次対称正方行列 A を用いて、

Q(x) = xT A x

(T は転置を表す記号。) と表すことが出来ます。 この2次形式が半正定になるための条件は、 行列 A の全ての固有値が非負になることです。

付値

もう1つ、体の絶対値の概念を一般化することを考えましょう。 このような概念を付値(valuation)と呼びます。

絶対値というものに求められる条件ということで以下のようなものを考えます。 「K から実数 R への写像 vで、 任意の元 x, y ∈ K に対して、

  1. v(x) ≧ 0

  2. v = 0 ⇔ v(x) = 0

  3. v(x y) = v(x) v(y)

  4. v(x + y) ≦ v(x) + v(y)

を満たすものを K の付値と呼びます。 実数や複素数の絶対値はこの条件を満たしています。

K に付値 v が定義されるとき、 v を用いて

d(x, y) = v(x - y)

によって計量を導入出来ます。

連続写像

距離空間の概念によって、 写像の連続性というものを議論することができます。 写像の連続性は、「ε-δ論法」を用いて定義します。

距離空間 (A, dA) から (B, dB) への写像 f が、 点 x ∈ A において、

∀ε>0, ∃δ>0, dA(x, y) < δ → dB(f(x), f(y)) < ε

を満たすとき、 fx において連続(continuous)であるといいます。 δε および x の2つによって定まる従属変数だと考えてください。

より強い条件として、 この命題が x, y と無関係に成り立つような δ が存在するとき、 すなわち、 δx には依存せず、 ε のみの従属変数に出来るとき、 f は一様連続(uniform continuous)であるといいます。

執筆予定

ε近傍
ε近傍を使った連続性の定義

・数列の極限
p 進付値
p 進付値による極限
p 進体

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