目次

概要

行列とは何なのかといわれると、いろいろな表現の仕方があるのですが、 大まかに言うと以下の2つになります。

  • 行列 = 1次方程式を表現するための便法、数の一般化

  • 行列 = 線形写像

行列

まず、行列というのは1次方程式を簡潔に表現するための便法だと考えることができます。 例えば、

a11 x1 + a12 x2 = b1
a21 x1 + a22 x2 = b2

というような連立1次方程式を、

[
a11a12
a21a22
] [
x1
x2
][
b1
b2
]

と表す。 あるいは、

A = [
a11a12
a21a22
] , x = [
x1
x2
] , b = [
b1
b2
]

と置いて、

A x = b

と表すことができます。

こうすることで、 1変数の場合と同じ記法で他変数の1次方程式を記述できます。 1変数のときに、 a x = y, b y = c ならば a b x = c で、 x = b-1 a-1 c と表せるように、 他変数の場合でも行列を用いて、 A x = y, B y = cx について解いたものを x = B-1 A-1 c と表せます。

行列を用いて1変数のときと同じ記法で他変数の場合を表現できるのは、 1次方程式の解だけじゃなくて他にもいろいろなものがあります。 以下に、いくつか例を挙げます。

線形漸化式

1変数のとき、

xn + 1 = a xn  ⇒  xn = an x0

多変数でも、

xn + 1 = A xn  ⇒  xn = An x0

線形微分方程式

1変数のとき、

d
dt
x(t) = a x(t)  ⇒  x(t) = eat x(0)

多変数でも、

d
dt
x(t) = A x(t)  ⇒  x(t)exp(At) x(0)

ただし、行列 A の指数関数 exp(A) は冪級数で定義。

これらの例に示すように、 行列というのは、数というものを多変数・高次元の場合に一般化したものだと考えることができます。

線形写像

行列の持つもう1つの側面として、線形写像という考え方があります。

ベクトルに対して、線形性という性質にのみ着目して、線形空間として抽象化したように、 行列も線形写像として抽象化されます。

前節の説明で、行列というのは、以下のような1次方程式を表現するための便法だと説明しました。

[
a11a12
a21a22
] [
x1
x2
][
y1
y2
]

ベクトル・行列を使って表すと、

Ax = y

となりますが、この式は、 「ベクトル x に対して行列を掛けると、別のベクトル y が得られる」 と考えることもできます。 すなわち、行列はベクトル → ベクトルへの変換・写像だとみなせます。

これに対して、 一般の線形空間 → 線形空間の写像で以下の性質を満たすものを線形写像といいます。

U, V は体 K 上の線形空間で、 fUV の写像とします。 x, y ∈ U,  a, b ∈ K のとき、

f(ax + by) = a f(x) + b f(y)

となるとき、fUV の線形写像といいます。

ベクトルと線形空間」の「基底」で触れましたが、 任意の線形空間は、適当な座標系を与えることで、数ベクトルとして表現可能です。 なので、任意の線形写像は、定義域・値域の両方に適当な座標系を与えることで、 (有限次元ならば)行列として表現可能です。

例えば、文字 t に関する3次多項式は線形空間、 それに対する微分演算は線形写像になりますが、 3次多項式の基底として、{1, t, t2, t3} をとるなら、 微分演算

d
dt

[
0100
0020
0003
0000
]

という行列で表されます。 ただし、行列での表し方は、座標系の取り方に依存しています。 今の例において、基底の取り方をチェビシェフ多項式 {1, t, 2t2 - 1, 4t3 - 3t} に変えると、

[
0103
0040
0006
0000
]

となりますし、 ルジャンドル多項式 {1, t,

3
2
t2
1
2
,
5
2
t3
3
2
t} に変えると、

[
0101
0030
0005
0000
]

となります。

ということで、線形写像 ≒ 行列 と思ってもいいわけですが、 抽象的に定義しておく方が扱える対象が広がって都合がいいので(無限次元も扱えるし)、 抽象化します。 もし必要なら、必要が生じたときに始めて、 その時々に最も適切な座標系を選んで、行列表現を得ます。

座標変換

同じ線形空間上の同じ元でも、座標系の取り方によって異なる数ベクトルで表される。 ある座標系から別の座標系に変換することを座標変換と言う。 座標変換も線形写像になる = 行列で表される。

例として、前節で例示した t に関する3次多項式の座標変換を考えてみましょう。 多項式 a + b t + c t2 + d t3 は、 座標系 {1, t, t2, t3} を用いるなら、 (a, b, c, d) となります。 一方で、 チェビシェフ多項式を用いた座標系 {1, t, 2t2 - 1, 4t3 - 3t} を用いるなら、 (a + 1/2 c, b + 3/4 d, 1/2 c, 1/4 d) となります。

したがって、 {1, t, t2, t3} から {1, t, 2t2 - 1, 4t3 - 3t} への座標変換は以下のような行列で表現できます。

[
101/20
0103/4
001/20
0001/4
]

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