概要
複素数は実数の2次の代数拡大体。 また、複素数は代数的閉体になっている。
複素数の定義
実数係数の代数方程式の根は必ずしも実数とはなりません。 簡単な例を挙げると、 x2 + 1 = 0 の根は実数の範囲にはありません。 そこで、 実数に x2 + 1 = 0 の根を付け加えたような集合を作ろうというのが複素数の発想です。
要するに、実数 R に、 i2 = −1 を満たすような特別な元 i を付け加えた集合
を作ります。 このような手順で新しい集合を作ることを 「代数拡大」 といい、 作られた集合は「体」 になります(加減乗除が定義できる)。 (詳しくは、群・環・体で説明します。) この体 C を複素数(complex number)と呼びます。
ここで新しく定義した元 i を虚数単位といいます。 工学系の分野では、習慣的に i は電流を表すための文字なので、 これと区別するために虚数単位を j で表すこともあります。
C の任意の元 α は、 2つの実数 x, y と虚数単位 i を用いて
と表すことができます。 すなわち、 1, i を基底ベクトルとする2次元ベクトル空間になっています。 (これも代数拡大体の性質の1つです。詳しくは群・環・体で。) このため、 複素数は単純に大小比較することは出来ません。 (ベクトルは大小比較が出来ない。)
ちなみに、上式において、 (i の付かない) x の部分を実部(real part)、 (i の付いている) y の部分を虚部(imaginary part)と呼びます。
虚部が 0、すなわち、y = 0 となるような複素数は、実数と1対1に対応するので、 実数は複素数の部分集合であるとみなすことができます。
また、複素数の中で、実数ではないもの、すなわち、虚部を持つ(y ≠ 0 )ものを虚数(imaginary number)と呼びます。 特に、実部を持たず(x = 0 )、虚部のみを持つ虚数を、 純虚数(pure imaginary number, purely imaginary number)と呼びます。
複素数の間の関係・演算
複素数の加減算・乗算
2つの複素数 α = x + iy, β = w + iz の和・差は
となります。
また、α, β の積は、 実数の積および i2 = − 1 という性質を使うと、
となります。
複素数の絶対値、共役
複素数 α = x + iy に対して、 実数 √ を α の絶対値と呼び、 |α| で表します。
また、複素数 α = x + iy に対して、 x − iy で表される複素数を、 共役な複素数と呼び、 α* で表します。
複素数 α とその共役複素数を掛け合わせると、
というように、絶対値の2乗になります。
したがって、
α* |
|α| 2 |
α* |
|α| 2 |
となるので、α が非 0 のとき、
必ず逆数が存在し、
と表せます。
したがって、複素数は体になります。
α*
|α|
2
代数系としての複素数
ここまでで説明してきたように、複素数は体になります。 体であることを明示的に表すために、複素数を複素数体と呼ぶこともあります。
複素数は、実数や有理数を部分体として含む体となります。 最初にも述べていますが、 実数→複素数のように、解を持たない代数方程式の根を付け加えることで体を拡大する方法を「代数拡大」と呼びます。 また、複素数は実数上の2次元ベクトル空間にもなっているわけですが、 このことを複素数は実数の2次の代数拡大体であるといいます。
余談
複素数以外にも代数拡大によって作れる体はいくらでもあります。 例えば、有理数体 Q に √ を加えた集合 { Q, √ } を作ると体になります。
p, q, r, s ∈ Q として、 α = p + ( √ ) q, β = r + ( √ ) s とすると、
(ただし、 d = p2 − 3 q2 ∈ Q ) となり、 四則演算が定義できることが分かると思います。
執筆予定
複素数係数の代数方程式は必ず複素数根を持つ。 このような性質を「代数的に閉じている」という。 代数的に閉じた体を「代数的閉体」と呼ぶ。 (複素数体は代数的閉体) ↑ 代数学の基本定理。 代数的に証明しようとすると結構面倒。 複素関数論とかを使って解析的に証明すると(複素解析が分かっていれば)割と簡単。