詳しくは「数学」を見てもらうことになりますが、
ベクトル解析は正規直交座標を用いて表す限り、非常に美しい理論体系です。
ところが、ベクトル解析は座標変換に弱く、
この美しさは正規直交座標以外の座標系を用いた瞬間に崩れてしまいます。
これは、微分演算子( 等)と座標変換との相性があまりよくないために起こる問題です。
直交座標系で美しく表せるのなら直交座標だけ使えばいいと思うかもしれませんが、
微分方程式は変数変換(座標変換)によって解きやすい形に式変形してから解くのが一般的で、
座標変換に強い理論が立てられるならそれに越したことはありません。
このような背景から生まれた理論が微分形式です。
微分形式は、ベクトル解析で表現できることを全て表現できるだけでなく、
座標変換に強く、
さらには任意の次元にまで拡張できる非常に美しい理論体系です。
多くの解説書では、微分形式の形式的定義を最初に述べ、
そこから出発して、微分形式がベクトル解析や積分方程式の理論をうまく内包していることを示しています。
この過程を初めて目にすると、
あまりにも美しく完成された理論に驚くかと思います。
しかしながら、どんなに美しい理論にも、
完成に至るまでには泥臭い過程があるもので、
理論を理解するためにはその泥臭い過程を知ることも重要です。
そこでここでは、微分形式の理論に至るまでの泥臭い過程から説明したいと思います。
ここでは、座標を u, v 等で表します。
これは、太字で書かれてはいませんが、ベクトルを表しています。
N 次元の座標 u を
u = (u1 , u2 , ・・・, uN)
あるいは
u = (u1, u2, ・・・, uN)
と言うように表します。
添字は 1 から始めます。
(N - 1 と言うように -1 を書くのが面倒なため。)
後者は添字が上に書かれていますが、冪ではありません。
添字を上に書くのと下に書くのの違いは後々説明します。
また、微分形式の理論では、
df
=
f
dxi
というように、積和の形で表される式が頻繁に現れます。
そこで、簡略化のために、
「左右の辺の片側に2つ同じ添字の付いた変数があった場合、
その添字に関して和を取る」
という省略記法があり、
アインシュタインの記法(Einstein notation)と呼ばれます。
例えば、先ほどの式は
アインシュタインの記法を用いると
df
=
f
dxi
と表されます。
先ほどとの違いは Σ が省略されただけですが、
多重に積和を取るような場合には Σ を書くだけでもずいぶん手間がかかるので、
これを省略します。
例えば、Σ が3重に付いたような式
v
=
u
は
v
=
u
と略記します。
まず、座標変換について説明します。
N 次元の座標 u で表されている関数や微分方程式等の式を、
別の座標 v で表すことを考えてみます。
u と v の間の関係は、
v = v(u) と表されているものとしましょう。
v(u) は RN → RN の「同相写像」で、
微分可能性に関してはとりあえず無限階微分可能と言うことにしておきましょう。
f(u) みたいな単純なものは、座標変換も簡単で、
単に u = v-1(v) を代入するだけで OK です。
ところが、微分が絡むと少し面倒で、
偏微分演算子 や
微小変分 dui は以下のような変換ルールが必要になります。
高階の偏微分演算子
( 等)
や、
重積分中の微小変分
(duiduj 等)
の座標変換はさらに複雑になるであろうことは容易に想像が付くかと思います。
微小変分は、
というように行列式で表される形になります。
詳細は後述しますが、これは実は、微小変分同士の間にウェッジ積と呼ばれる積を定義することで簡潔な表現が可能になるのですが、
偏微分演算子の方は、
という例からも分かるように、積の微分法則が複雑なため、特に高階の座標変換が困難です。
追記予定
微分演算子が座標変換に弱い、というのは、
ベクトル解析で使う、勾配・発散・回転を見てみるもはっきり分かる。
例を挙げて説明。
執筆予定
・座標変換
座標変換(あるいは変数変換)の重要性を先に説明しよう
- 座標変換、変数変換の有用性
不定積分にたいして、解析的に原始関数を求めるとき、
置換積分と呼ばれる手法を使うことが多々ある
→ 置換積分はある意味、変数変換=座標変換の一種。
微分方程式を解析的に解くのにもよく変数変換を用いる。
線形変換も、座標変換によって簡単化できる。
参考: 「[Jordan の標準形](/study/math/linear/eigen?key=jordan)」
→ このように、座標変換によって式変形することで、
問題を解きやすくする事ができる。
・高次元化
あと、独立変数の数を増やす代わりに、
方程式の次数や微分の階数なんかを減らす手法があることも示そう
ラグランジュの未定乗数法
高階線形微分方程式 → 連立1階線形微分方程式
解析力学のラグランジュの方程式 → ハミルトンの正準方程式
→ 3次元にしか使えないベクトル解析では不十分
3次元で定式化しているつもりが、
未定乗数で1次元増えたり、
正準変数の導入で6次元になったり。
前節で、微分が絡むと座標変換が難しくなると書きましたが、
微分が絡んでいても、ある条件下では座標変換が簡潔に表されます。
その最たる例が全微分です。
座標に関する関数 f の全微分 df は、
どんな座標系を用いようとも同じ形式で表されます。
例えば、u と v という2つの座標で df を表すと以下のようになります。
これはどういうことかと言うと、
と
dui
の変換規則が真逆なため、打ち消しあうことで結局の所元の形が維持されます。
実際に計算してみると、
=
,
dvi
=
duj
なので、
df
=
f
dv
i
=
f
du
k
=
f
du
k
=
f
du
k
=
f
du
i
となります。
最後の式変形は、
=
δjk
(δjk はクロネッカーのδ)
であることを利用しています。
真逆な2つの変換規則が互いに打ち消しあっているというのがポイントなわけですが、
このことから次のような発想が生まれます。
ベクトル解析では、積分形で表される法則、
例えば、
∮E・dl = -∫B・dS
等を、
微分形で
∇×E = -B
というように表し、
dx 等の微小変分を省略していましたが、
これが間違いだったのではないでしょうか。
dx 等を付けっぱなしにすることで、
全微分のように座標変換に対して不変な記述ができたのではないか、
という発想です。
微分形式というのは、この発想から生まれてくる概念です。
前節で、
と
dui
という、
変換規則が真逆な2つの物があることを説明しました。
N 次元座標 ui(i = 1~N)を考えると、
と
dui
はいずれも N 個ずつ存在することになります。
これら2組を基底として、
2つの N 次元ベクトル空間
ai
と
fidui
を作ることが出来ます。
物理的なイメージは次節以降で説明していくことになりますが、
本節ではまず、形式的にこれらのベクトル空間の座標変換について説明します。
では、これらのベクトルが座標変換によってどう変化するかを考えてみましょう。
とりあえず、まずは
ai
の方について考えます。
基底を明示するために、
基底
を用いた時の成分を
au i、
基底
を用いた時の成分を
av i、
で表してみます。
すると、
au i
=
av i
となればいいわけですが、
の座標変換規則
=
を考えると、
となるわけで、
と表されます。
数ベクトル&行列的に表現するなら、
au
=
(
au 1,
au 2,
・・・
au N)T
,
au
=
(
au 1,
au 2,
・・・
au N)T
,
=
()
と置いて、
av
=
au
と表すことが出来ます。
同様に、
fidui
の方も、
基底を明示するために、
基底 dui
を用いた時の成分を
fu
=
(
fu 1 ,
fu 2 ,
・・・
fu N)T、
基底
を用いた時の成分を
fv
=
(
fv 1 ,
fv 2 ,
・・・
fv N)T、
で表すと、
fv
=
fu
と表されることになります。
ai
の方の成分
ai
は、座標変換に対して
av
=
au
という式で変化し、
これは、実は、dui
と同じ変換規則になっています。
一方、
fidui
の方の成分
fi
は、座標変換に対して
fv
=
fu
という式で変化し、
これは、実は、
と同じ変換規則になっています。
(いずれも、基底と反対の変換規則になる。)
座標変数の微小差分 dui と同じ変換規則という意味で、
dui
の方を共変ベクトル(covariant vevtor)、
dui と反対の変換規則という意味で、
の方を反変ベクトル(contravariant vevtor)と呼びます。
共変ベクトル・反変ベクトルという呼び方は、
座標変換の変化の仕方という視点で見た場合の呼び名になります。
次節以降では、
これらのベクトルの物理的なイメージについて説明していくことになりますが、
その際、視点の違いによっていくつか異なる呼び方をします。
反変ベクトルの方は、多様体論などでは接ベクトルと呼ばれていますし、
力学などでは単にベクトル場と呼べば反変ベクトルのことを指します。
共変ベクトルの方はというと、
多様体論などでは余接ベクトルと呼ばれています。
これは、接ベクトルの「双対空間」になっているためです。
また、本稿の主題である微分形式は共変ベクトル(を含む概念)です。
ちなみに、ここまでの説明で、
添字が上に付いているものと下についているものがあることにお気づきでしょうか。
基本的に、共変ベクトルの添字は上に、
反変ベクトルの添字は下につけます。
これはどういうことかと言うと、
上に添字の付いているものと下に添字の付いているものとの間で和を取る形になっています。
「記法に関して」で説明したように、
「アインシュタインの記法」によって和を意味する Σ を省略しているわけですが、
このとき、上に付く添字と下に付く添字で同じ文字があれば和を取るんだと思ってください。
基本的に、上に付く添字同士、下に付く添字同士で和を取ることはありません。
2つのベクトル
|
反変ベクトル |
共変ベクトル |
表現方法 |
ai
|
fidui
|
座標変換規則 (基底) |
=
|
dvi
=
duj
|
その他の呼び方 |
接ベクトル、ベクトル場
|
余接ベクトル、微分形式
|
アインシュタインの記法では、
上に付く添字と下に付く添字で同じ文字があれば和を取ると説明しました。
また、共変ベクトルの添字は上、
反変ベクトルの添字は下だという説明もしました。
要するに、
添字が上のものと下のもので座標変換規則が逆なんですね。
なので、
添字が上のものと下のものの積和を取ると、
座標変換に対して不変なものができます。
ということは、
共変ベクトルの成分 ai と
反変ベクトルの成分 fi の
積和
ai fi
も座標変換に対して不変です。
(座標に対して不変な量なので、基底を省略して書いても OK。)
多様体論などの分野では、
このような座標変換に対して不変な量をスカラー(scaler)と呼びます。
例え1次元の量(向きを持たない量)であっても、
座標変換に対して不変でないものはスカラーとは呼びません。