概要
「最小作用の原理」を出発点として、 座標系によらない力学法則を導出することができます。
ラグランジュの運動方程式
「最小作用の原理」では、「物体は労力的にみて最短な経路を通ろうとする」という話をしました。
L
=
m
(
x'2+
y'2)−
V(x, y)
と置いて、
I
(x, y)=∫1 2
L(x, y, x', y')dt
が物体の移動に掛かる労力(= 作用)で、
これを最小にするような経路を求めることで、
物体の運動の軌跡が分かります
(「最小作用の原理」)。
「変分学」の知識を使って、 この作用 I の変分問題から以下のような微分方程式が得られます。
d |
dt |
∂ |
∂ |
∂ |
∂x |
これをラグランジュ形式の運動方程式、 あるいは単に、ラグランジュの運動方程式といいます。 (ラグランジュはフランスの物理学者。Joseph Louis Lagrange。)
ちなみに、物理の分野では、ここで出てきた L をラグランジアン(Lagrangian)と呼びます。 分野によってラグランジアンという言葉の意味・ニュアンスが違ったりするみたいで、 以下のような2つの使い方をするようなんですが、 物理学では通常、1. の方を使います。
-
力学: 運動エネルギーTと位置エネルギーVの差L = T − Vを(1つの物理量とみなして)ラグランジアンと呼ぶ。
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変分学: 汎関数I(x)が、 積分形で I[x]=∫
L ( x(t), x(1)(t), x(2)(t), ⋯)dt と表されるとき、Iをラグランジアン、Lをラグランジアン密度と呼ぶ。b a
「ラグランジュの作用積分」、「ラグランジュの作用密度」とかいう言い方すれば、 意味がはっきりするんですけどね。
座標に依存しない力学
ラグランジュ形式の運動方程式は、
元々が作用
I
(x)=∫
L(x, x')dt
の変分問題なので、
変数変換で式の形が変わりません。
これはどういうことかというと、 座標変数 x を別の変数 q に変換するなら、 Lq(q, q')= L(x(q, q'), x'(q, q')) とでもおいて、 作用は
と書き表されます。 この変分問題を微分方程式に直すなら、
d |
dt |
∂ |
∂ |
∂ |
∂q |
という式になって、見ての通り、座標変数が x のときと全く同じ式になります。
(
もちろん、
とか
∂ ∂q
とかの座標変換法則から、
微分方程式の方をがんばって式変形しても同様の結論に至ります。
)∂ ∂
どんな座標系を使っても同じ式になるということで、 直交座標系のイメージの強い x の文字は避けて、 変数 q を使って運動方程式を記述します。
現代科学的には、 「自然の法則は座標系の取り方には依存しない」という信念みたいなものがあって、 その信念に基づけば、ニュートンの運動方程式よりも、 変数(座標系)の取り方に依存しないラグランジュの運動方程式の方が自然の本質に近づいた式といえます。
ベクトルポテンシャル
位置エネルギー V の部分が q' にも依存する場合についても考えてみます。 例えば、 保存場(スカラーポテンシャル U のみを持つ場)じゃなくて ベクトルポテンシャル A がある場合、 物体に働く力 f は、
∂ |
∂t |
になります。 L = T − V (q, q') から導出される力 f が上式を満たすようにしたければ、 V (q, q')= U(q)+A(q)⋅ q' とすればいいことが、 (頑張って計算してみれば)分かります。 要するに、 ベクトルポテンシャルが存在する場合のラグランジアンは
という形になります。 ( ちなみに、 この形式のラグランジアンや、 ベクトルポテンシャルの物理的な意味に関しては、 「計量とポテンシャル」を参照。)
電磁場の場合は、電荷が運動するだけで磁場というベクトルポテンシャル持った場が生じます。 では、重力場の場合はどうかというと、 座標の方が動いたりする(例えば、自分の乗ってる乗り物が加速する)と、 慣性力とかコリオリの力が生じるますが、 これをベクトルポテンシャルによって生じる力だと考えて式を立てることができます。
まとめ
運動エネルギーを T(q')、 スカラーポテンシャルを U(q)、 ベクトルポテンシャルを A(q) として、
と置いて、
d |
dt |
∂ |
∂ |
∂ |
∂q |
が物体の運動を記述する方程式。
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「最小作用の原理」から導出。
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元が作用積分の変分問題なので、座標変数の取り方によらず式の形が同じ。
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現代科学的には、「自然法則は座標系の取り方に依存しない」という信念みたいなものがある。