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概要

最小作用の原理」では、 「物体は最短経路上を運動する」というような話をしました。 そこでは、 経路長として ds= x'2+ y'2dt の積分を用いて、その最小化問題を考えました。 (表示の都合上、時間微分を ' で表します。) この式は、いわゆる直交座標系での話なわけですが、 一般の座標系の場合について考え直してみましょう。

一般の座標系の場合、 計量(metric)という考え方が出てきます。 計量というのは、空間上の各点における「空間の伸び縮み」、 あるいは「移動に掛かるコスト」を表す量なのですが、 詳細は次節移行で説明していきます。

また、物体に力が掛かっているときには、 平方根の中身に、ポテンシャルに相当する項 u(x, y) を付け加えて、 ds= x'2+ y'2+ u(x, y)dt の積分の最小化を考えました。 この u という項が一体なんなのかということも、 計量の考え方に基づくことで、すっきりとした理解が可能です。

さらに、計量の考え方の基、 ベクトルポテンシャルというものも考えてみます。

一般座標系と計量

最小作用の原理」では、 座標を (x, y) で書きましたが、 このページでは、

x = ( x1 , x2 , x3 ) t

(右肩の t は転置の意味。) と書くことにします。 線素 ds は、

ds =|ds|= x1'2+ x2'2+ x3'2dt =x'tx' dt =dxtdx

となります。

x は直交座標なわけですが、 これに対して、 一般の座標 r を導入します。 xr の関係を、

r = r ( x )

と表しましょう。 このとき、 微分演算の性質から、 それぞれの導関数には以下のような関係がなりたちます。

d r =
d r
d x
d x
d x =
d x
d r
d r

ただし、 記号

dx
dr
は、 i, j 成分が
xi
rj
となるような行列です。 したがって、

d x t d x = d r t
d x
d r
t
d x
d r
d r

となります。 ここで、

dx
dr
t
dx
dr
の部分を G={Gij} という行列で書き表すなら、

ds =dxtdx=drtGdr=r'tGr' dt
Gij=
k=1, 2, 3
xk
ri
xk
rj

となります。

今、 xr の関係から対称な行列 G を導出しましたが、 実は、 xr の関係とかは考えずに、 G だけ与えるようにしてもかまわないんですね。 G が与えられれば、 ds =drtGdr=r'tGr' dt の積分で距離が定義できます。

この対称行列 G計量(metric)と呼びます。 (ここでは行列という言い方をしていますが、 本当は、座標変換のことまで考えると、 「2階の共変テンソル」という方が正確。 テンソルについては、「数学」あたりで説明予定。 ) 計量というのは、空間上の各点における「長さの尺度」という意味です。 r が直交座標ではないので、 各点の尺度が違うと考える。

スカラーポテンシャルと4次元計量

歪んだ空間での最短経路」では、 ds= x'2+ y'2dt の平方根の中身にスカラーポテンシャルに相当する項 u(x, y) を加えました。 前節で導入した記法に従って書き直すなら、

ds =r'tGr' + u dt =drtGdr+dt u dt

となります。 特に、一番右の辺を見てください。 なんだか、さらに綺麗にまとめられそうな気がします。 時間変数 t と空間座標 r をまとめて4次元ベクトル q を、 スカラーポテンシャル u と3次元計量 Gをまとめて4次元計量 g を作ります。

q =(t, r)t
g =[
u0
0G
]

すると、先ほどの線素の式は、

ds =dqt g dq

という非常にシンプルな形に落ち着きます。 要するに、3次元空間に時間を加えて、 4次元時空として考えた方が式が綺麗にまとまる。 そして、ポテンシャルのつもりで導入した u は、 4次元時空の計量の時間 t に関係する成分だという解釈ができます。

ベクトルポテンシャル

前節で導入した4次元計量 g は、

g =[
u0
0G
]

という形をしていました。 で、これの 0 になっている部分に何か値を入れてみましょう。 (というか、0 のままにしておきたくても、 座標変換の仕方によっては 0 でなくなってしまう場合があります。) すなわち、

g =[
u
1
2
at
1
2
a
G
]

とします。

結論から先に言ってしまうと、 u がスカラーポテンシャル(の定数倍、逆符号)に相当する項なのに対して、 a はベクトルポテンシャルに相当します。 これから、そのことを示していくことにします。

まず、この計量 g 線素 ds の式に代入します。 すると、

ds =dqt g dq =drtGdr+dt u dt +dt adr
= r'tGr' + u +ar' dt

となります。 そこで、 作用密度 L =r'tGr' + u +ar' と置いて変分問題を解くと、

d
dt
r'
L
∂r
L =0
d
dt
( 2 G r' +a) (
∂r
u +
∂r
ar' ) = 0

r が直交座標 x の時には、 G が単位行列となって、

2
d 2
dt2
x =
x
u +
x
ax'
d
dt
a

となります。 最後の2項は、 頑張って展開して計算すると、 ベクトル解析の記法で書くなら(参考: 「数学」)、

x
a x'
d
dt
a=
∂t
ax' ×(×a)

となります。 すなわち、

2
d 2
dt2
x = u
∂t
ax' ×(×a)

ベクトル解析の知識とてらし合わせるなら、 スカラーポテンシャルを φ、 ベクトルポテンシャルを A とすると、

m
d2
dt2
x=φ +
∂t
A+x' ×(×A)

となるはずなので、 2つの式を比較して、

u =
2
m
φ
a =
2
m
A

となって、定数倍の違い(特に符号が±逆)を除けば、 u, a がポテンシャルに相当するものであることが分かります。

まとめ

「最小作用の原理」 ≒ 「物体は最短距離を動く」という考え方のもと、 計量という概念を導入しました。

3次元空間に時間変数を加えて、 4次元時空で考えると、 ポテンシャルを計量の一部として考えることができます。

3次元空間の計量を G として、 ベクトル解析で言う所の スカラーポテンシャルを φ、 ベクトルポテンシャルを A とすると、 4次元時空の計量は、

g =[
2
m
φ
1
m
At
1
m
A
G
]

あるいは定数の掛け方を変えて、

g =[
φ
1
2
At
1
2
A
m
2
G
]

further reading

  • 距離を計量を使って表す → リーマン幾何学。

  • ラグランジュの方程式の変わりに、 測地線(geodesic)の方程式というものが出てくる。

  • 4次元計量を使って力学を構築 → 一般相対性理論に繋がる。

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