こないだ書いたベンゼン環の話とニンジャキャット終了のお知らせはある意味前振りだったりしまして。
個人的にやべぇなと思う Unicode の文字で1・2を争うのは 〠 と 〄 だったりします。
- 〠: U+3020、postal mark face、顔郵便マーク
- 〄: U+3004、Japanese industrial standard symbol、JIS マーク
アップルロゴの話で書きましたが、 商標になるようなものを Unicode に入れるとか普通は考えられないわけですが。 〠 と 〄 は一体…
出どころ
2文字とも出自は MacJapanese でして。 要は Shift_JIS の Mac 独自拡張。
どうも元々は日本の中小印刷所が使っていた外字だったらしい? それがデファクトスタンダード化して Mac OS に取り込まれ。 それとの「互換性用文字」として Unicode にも含まれてしまったという経緯。
商標的にも怪しいですし、今の Unicode は「1国のローカルでだけ通用する記号の類」を文字として追加することには否定的なんで、今の基準でいうと絶対に入らなさそうな文字です。 ただ、MacJapanse としてもう流通してしまっている以上、互換性用としては必要。
とはいえ、商標の権利上の懸念からアップルのロゴは Unicode には収録されなかったわけで、 じゃあどうして 〠 と 〄 は平気だったのか… 私企業じゃく公的な物だとか、商標登録されてるかとかの差はあるでしょうけども。
〠
郵便番号を 〒 で表すこと自体、日本独自です。 この記号は逓信(ていしん)の「テ」か「T」から来てるとする説が有力らしく、今となってはその元ネタの「逓」の文字すら使われておらず。
まして顔の方。 郵政省のマスコットですよね?
一応、正確に言うと、〠 に手と胴体の付いたキャラクターが「ナンバーくん」という郵政省(郵政民営化前)のマスコットだったみたいです。 (「胴体が付いてないからナンバーくんではない」と言えなくもない。)
そしてこの「ナンバーくん」は「役割を終えた」、「民営化に伴い新会社では『撤去が望ましい』」とか言われているそうで。 日本郵便のマスコット キャラクターとしては今現在「ポストンくん」という別キャラがいるそうです。
ちなみに、Wikipedia のポストンくんのところを読んでると、「フォントのメイリオでは、ベータ版公開時には郵便マークのコードポイントのU+3020にポストンの記号が使用されていた」とか書かれていたりします。 要は、互換性のためだけに存在する文字(しかも権利的に怪しい文字)に対して字形変更をすべきかどうか問題が発生。
〄
要は JIS マーク。 「JIS 適合していることを認証された」というのを1文字で印刷所に送れるのは昔は重宝したんでしょうね…
ところでこの記号、よく見てください。 いわゆる「旧 JIS マーク」になっています。 2004年に工業規格の法改正に伴って JIS マークも刷新されています。 「ポストンくん」問題同様、こっちでも「Unicode 中の 〄 もグリフ字形すべき?」みたいな話があったりします。
新字形の文字コード
ここでまあ、ベンゼン環は ⌬ と ⏣ の2文字あるという話につながります。
JIS マークも「やるんだったら新旧両方の字体があるべきだろう」という所までは話した出ており。 現実的には、元々の 〄 (U+3004) に異体字セレクターでも付けるのがいいんじゃないかということになっています。
ちなみに、需要がなさ過ぎて具体的な議論は進んでいないので、 そんな文字が Unicode に追加されることはまあまずないと思います。
ただ、GlyphWiki (共同編集で保守されている文字字形 Wiki)には 〄 のバリエーションとして新 JIS マークのページがあったり、 一部の DTP 向けフォントには外字として新 JIS マークがあるらしかったり、 今でも日本には「文字として JIS マークを印刷したい」需要はあるんですね…
まとめ
ということで改めて 〠 と 〄、
- 互換性のためだけにある
- 権利関係が謎
- しかも今現在、新意匠が作られたのでもう使われなくなった字形
- Unicode 的にも字形変更すべきか議論がある
というなかなかに罪深い文字だったりします。
なので絵文字に関する地雷話をしてるときとかに、「まあ絵文字じゃなくてもこんなやべぇやつがいるんで今更」みたいな話をよくしたり。