実数は、有理数をユークリッド距離を用いて完備化した体になります。
完備(complete)というのは、
体中の任意の数列の極限値がその体の中に入っているものの事をいいます(正確には距離完備)。
要するに、有理数列の極限は必ずしも有理数になりませんが、
その有理数列の極限によって得られる値全体の集合が実数になります。
このように、有理数列の極限値として実数を定義する方法は、
カントール(Georg Cantor:ドイツの数学者)によるもので、
ユークリッド距離による距離完備化という概念を用いたものです。
これに対して、
デーデキント(Julius Wilhelm Richard Dedekind:ドイツの数学者)による、
デーデキントの切断と呼ばれる実数の構成方法もあり、
こちらは大小関係による順序完備化という概念を用います。
ここでは前者の距離完備化(カントール流の定義)を用いて説明します。
有理数列は必ずしも有理数に収束しません。
例えば、an = とすると、 an は無理数になります。
なんでこういう話をするかというと、
大雑把な言い方をすれば、実数は有理数列の収束値として定義します。
もう少し正確な実数の定義を説明する前に、有理数列というものについて説明が必要になります。
まず、整数から有理数への写像 S = Qω の元 f を有理数列と呼びます。
また、n ∈ ω に対して、f(n) = an となるような数列 f を
{an}n ∈ ω と表します。
{a0, a1, a2, ・・・} などと表すこともあります。
収束する数列というものをきっちりと書き表す必要があります。
収束する数列というものの表すための条件として以下のようなものがあります。
任意の正の有理数 a に対して、
ある自然数 N があって、
n ≧ N となる任意の自然数 n に対して
|f(N) - f(n)| < a となる。
この条件を満たす数列を(有理数の)コーシー列(Cauchy sequnce、コーシーは人名)と呼びます。
この条件のような表現の仕方は、いわゆるε-δ論法というやつです。
例えば、{}n ∈ ω はコーシー列になります。
となるので、任意の有理数 a に対して、 < a となるような自然数 N を取ることでコーシー列の条件を満たすことができます。
他の例としては、定数列、すなわち、有理数 a を与えたとき
{a}n ∈ ω となる数列(n によらず常に a という値をとる数列)もコーシー列です。
(|f(N) - f(n)| は恒等的に 0。)
また、0 に収束する数列を零数列と呼びます。
厳密に書くならば、
任意の有理数 a に対して、
ある自然数 N があり、
n ≧ N となるような自然数 n に対して、
|f(n)| < a となる数列が零数列です。
最初に述べたように、概念的には有理数列の収束値として実数(real number)を定義します。
といっても、実際にはもう少し回りくどい定義の仕方が必要で、簡単に言うと以下のようになります。
- 2つのコーシー列 x = {xn}, y = {yn} に対して、x - y が零数列のとき(x と y が同じ値に収束するとき)互いに同値であるものとする。
- この同値関係を使ってコーシー列の商集合 R を作る。
- この R を実数と定義する。
要するに、実数はコーシー列全体の集合 C の零数列全体の集合 N による剰余体C/N になります。
定数列 {a} を代表する実数の元は有理数と1対1に対応するので、
これを有理数 a と同一視することができ、
有理数は実数の部分集合であるとみなすことができます。
実数の順序の話をする前に、コーシー列の極限というものについて説明します。
ある有理数列 f に対して、f を代表する実数の元を f の極限と呼び、f(n) または単に f で表します。
f, g ∈ C に対し、
が成り立ちます。
詳細は省きますが、任意のコーシー列 f には、
n ≧ N となるような自然数 n に対して
f(n) の符号が全て同じになるような自然数 N が存在します。
このときの符号を実数 f の符号として定義します。
そして、2つの実数 x, y の順序関係は
x - y が正 ⇔ x > y
x - y が負 ⇔ x < y
で定義します。
2つの実数 x = f, y = g の和・差・積・商は
で定義します。
定義から明らかなように、実数は体になります。
体であることを明示的に表すために、実数を実数体と呼ぶこともあります。
有理数も体になりますが、実数は有理数体を部分体として含む体ということになります。
体からより大きな体を作ることを体の拡大と呼びます。
特に、有理数→実数のように極限を用いて体の拡大を行う方法を完備拡大と呼びます。
・有理数と実数の関係
有理数 ⊂ 実数
(有理数は実数の真部分集合)
R-Q の元を無理数(irrational number)と呼ぶ。
・連続性
写像 F(x): R → R の連続性
F(a) = b のとき、
∀ε>0 ∃δ, |x - a| < δ ⇒ |f(x) - b| <ε
・完備性
実数のコーシー列は実数に収束する。
(⇔ 有理数のコーシー列は必ずしも有理数の範囲には収束しない)
「完備(completion)である」とはある集合のコーシー列の極限が、
その集合の範囲内に存在することを指す。
(有理数は完備ではなく、実数は完備)
ノルム空間とか完備化とかの話もどこかに書きたい。
余談:
極限の定義の仕方によって色々な完備拡大が出来る。
(コーシー列の定義のところで、|***| < a というように絶対値を使っているが、
この絶対値の部分を別の定義に置き換える。)
実際、有理数体の拡大体には、実数体の他に p-進体 というものがある。
(絶対値(いわゆるユークリッドノルム)の代わりにp進ノルムというものを使う。)
詳しくは群・環・体で説明。